大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)6286号 判決 1985年11月06日
原告
田中功
原告
田中産業株式会社
右代表者
田中功
右両名訴訟代理人
村林隆一
今中利昭
吉村洋
千田適
釜田佳孝
浦田和栄
谷口達吉
松本司
右輔佐人弁理士
中野収二
被告
昭和貿易株式会社
右代表者
末野明
右訴訟代理人
藤田邦彦
右輔佐人弁理士
藤田米蔵
藤田時彦
福田進
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は別紙(一)記載の収納袋及び別紙(二)記載の収納袋を製造し、販売してはならない。
2 被告は前項の各収納袋を廃棄せよ。
3 被告は原告田中功に対し九〇万円及びこれに対する昭和五九年九月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
4 被告は原告田中産業株式会社に対し一一一〇万円及びこれに対する昭和五九年九月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告田中功は次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有し、原告会社はその独占的通常実施権者である。
発明の名称 籾殻等の収納袋
出願日 昭和五二年九月九日(特許公報に昭和五三年三月二五日と記載されているのは誤記である。)
出願公告日 昭和五七年七月一五日
登録日 昭和五八年七月二五日
特許番号 第一一五七九〇四号
2 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「籾摺機などのダクトから風送排出される籾殻等が通過し得ない目巾の網地で袋主体を構成し、該袋主体1の少なくとも一方の側縁部3上方に、上記排出ダクト9が挿通可能な側縁開口部2を設け、この側縁開口部2と袋主体1の上縁部6に設けた上縁開口部7とをそれぞれファスナー4、5により開閉可能としたことを特徴とする風送籾殻等の収納袋。」
3 本件発明の構成要件及び作用効果
(一) 本件発明の構成要件を分説すれば次のとおりである。
(1) 籾摺機などのダクトから風送排出される籾殻等が通過し得ない目巾の網地で袋主体を構成し、
(2) 該袋主体1の少なくとも一方の側縁部3上方に、上記排出ダクト9が挿通可能な側縁開口部2を設け、
(3) この側縁開口部2と袋主体1の上縁部6に設けた上縁開口部7とをそれぞれファスナー4、5により開閉可能としたことを特徴とする
(4) 風送籾殻等の収納袋
(二) 本件発明の作用効果は次のとおりである。
(1) 籾摺機から放出される風送流は、袋主体1の網目より順次排出されるが、その網目に遮られる籾殻は周囲に飛散することなく確実に袋主体内に収容できて、従来問題とされていた籾摺公害を解消し得る。
(2) 予め多数の袋主体をダクトに串差し状に吊着させることによつて、袋の交換が簡単かつ迅速に行えるので、その都度籾摺機を停止する必要がなく、捕収作業が連続的に行えるなど、従来の籾殻処理に比べて、公害の排除並びに能率向上に顕著な効果がもたらされる。
4 被告は遅くとも昭和五七年七月から別紙(一)記載の収納袋(以下「イ号製品」という。)及び別紙(二)記載の収納袋(以下「ロ号製品」という。)を製造し、販売している。
5 イ号製品は次の構成及び作用効果を有する。
(一) 構成
(1) 籾摺機などのダクトから風送排出される籾殻等が通過し得ない目巾の網地で袋主体1を構成し、
(2) 該袋主体1の一方の側縁部3上方に、上記排出ダクト9が挿通可能な側縁開口部2を設け、
(3) この側縁開口部2と袋主体1の他方の側縁部3から下縁部にかけて設けたL形開口部7とをそれぞれファスナー4、5により開閉可能としたことを特徴とする。
(4) 風送籾殻等の収納袋
(二) 右の収納袋は右(一)の構成を有することによつて前記3(二)(1)(2)の作用効果を有する。
なお、右の収納袋が3(二)(2)の作用効果を有する理由は次のとおりである。
(1) イ号製品においては、側縁開口部2をファスナーを介して開口せしめ、該開口部2にダクト9の先端を挿入し、更にL形開口部7をファスナー5を介して開口せしめ、該開口部7からダクト9を挿出することにより、袋主体1をダクト9に串差状に吊着することができる(別紙(三)原告主張被告製品使用図(1)のイ号の右側鎖線の状態)。
このようにして予め多数の袋主体1をダクト9に吊着しておき、必要に応じて順次袋主体1をダクト9先端部に移動させた後(同図中央の状態)、ダクト9先端を袋主体1内に位置せしめた状態でL形開口部7をファスナー5により閉止し(同図左側の状態)、これによりダクト9から排出される籾殻を袋主体1内に収容できる。
(2) 右のとおり、イ号製品は使用時にダクト9を袋主体1に串差状に挿通し、これにより予め多数の袋主体を吊着させることができるものである。その結果イ号製品は本件発明と同様に「袋の交換が簡単、かつ迅速に行えるものであるから、その都度籾摺機を停止する必要がなく、捕収作業が連続的に行えるなど、従来の籾殻処理に比べて、公害の排除並びに能率向上に顕著な効果がもたらされる」という効果を奏するものである。
6 イ号製品は本件発明の技術的範囲に属する。
(一) 5(一)(1)の構成は3(一)(1)の要件を充足する。
(二) 5(一)(2)の構成は3(一)(2)の要件を充足する。
(三) 5(一)(3)の構成は3(一)(3)の要件を充足する。その理由は次のとおりである。
本件発明の構成要件3(一)(3)に対してイ号製品の構成は、一対の開口部2及び7のいずれをもファスナー4及び5により開閉可能としたものである。この点において、本件発明の構成要件とイ号製品の構成とに相違はない。
両者の相違点は、本件発明の開口部7が袋主体の上縁部にあるのに対して、イ号製品の開口部が袋主体の上縁部ではなく、袋主体の他方の側縁部3から下縁部にかけて設けたL形のものとされている点である。
ところで、本件発明の特許請求の範囲には「袋主体1の上縁部6に設けた上縁開口部7」と記載されているが、発明の目的及び作用効果に鑑みれば、この記載の意味を、右開口部7の位置を袋主体1の上縁部6に限るとの趣旨と解すべき必然性はない。なぜならば前記5(二)のとおり、本件発明において、仮に開口部7を袋主体1の下縁部に設けたとしても、その目的に何ら反することはなく、またその作用効果をすべて満足できるからである。
従つて、イ号製品が開口部7を袋主体の上部側縁開口部2とは反対の側縁から下縁部にかけてL形に設けたことは、技術的思想の創作にかかる発明としては、本件発明と相違しない。
また袋主体1自体において、いずれの縁部を上とするか下とするかは使用態様により使用者の任意に選択しうる事項である。イ号製品においても、袋主体1を倒立して使用する場合は、開口部7が上縁部にあると観念される。従つて、本件発明において開口部7の位置が上とか下とかに限定されるものではない。
仮にイ号製品の開口部7の配置が形式的に本件発明と相違するとしても、前記のとおり作用効果に影響を与えないものであるから、単なる設計事項の変更にすぎない。
さらに被告はイ号製品のほか後記のとおり開口部7を下縁部に横一文字形に設けたロ号製品や、本件発明と同様にこれを上縁部に設けた籾殻等の収納袋を製造、販売している。このように開口部7を必要に応じて袋主体1の上縁部に設けたりあるいは下縁部に設けたりすることは相互に置換容易である。従つてイ号製品は本件発明と均等の物である。
(四) 5(一)(4)の構成は3(一)(4)の要件を充足する。
(五) 従つてその作用効果も同じである。
7 ロ号製品は次の構成及び作用効果を有する。
(一) 構成
(1) 5(一)(1)に同じ。
(2) 5(一)(2)に同じ。
(3) 側縁開口部2と袋主体1の下縁部に設けた下縁開口部7とをそれぞれファスナー4、5により開閉可能としたことを特徴とする。
(4) 5(一)(4)に同じ。
(二) 右の収納袋は右(一)の構成を有することによつて前記3(二)(1)(2)の作用効果を有する。
なお、ロ号製品は、イ号製品のL形開口部に相当するものが、下縁開口部になるが、その使用方法には全く差異がない(別紙(三)原告主張被告製品使用図(1))。従つて、5(二)と同様の理由によりロ号製品も3(二)(2)の作用効果を有する。
8 ロ号製品は本件発明の技術的範囲に属する。
(一) 7(一)(1)の構成は3(一)(1)の要件を充足する。
(二) 7(一)(2)の構成は3(一)(2)の要件を充足する。
(三) 7(一)(3)の構成は3(一)(3)の要件を充足する。
ロ号製品のこの構成と本件発明との相違点は、開口部7の位置が本件発明では袋主体1の上縁部であるのに対し、ロ号製品では袋主体1の下縁部である点のみである。それゆえ、ロ号製品もイ号について6(三)に記載したのと同じ理由で、実質的に本件発明と同一であり、仮に開口部7の配置が形式的に相違するとしても単なる設計事項または均等の範囲内に属する。
(四) 7(一)(4)の構成は3(一)(4)の要件を充足する。
(五) 従つてその作用効果も同じである。
9 損害
(一) 被告の利益
(1) 被告は昭和五七年七月一五日から五九年七月一五日までイ号製品を製造販売し、その間少なくとも一五〇〇万円以上を売り上げ、少なくとも六〇〇万円以上の利益を得た。
(2) 被告は右の期間ロ号製品を製造販売し、その間少なくとも一五〇〇万円以上を売り上げ、少なくとも六〇〇万円以上の利益を得た。
(二) 右利益の額は被告の侵害行為によつて原告らが被つた損害の額と推定される。
(三) 原告会社は本件特許権の独占的通常実施権者として本件発明を実施しており、原告田中功に実施料として売上金の三パーセントを支払つている。
(四) このようにして、原告田中功は被告の前記売上合計金に対する三パーセントの実施料相当額九〇万円の損害を被つた。
原告会社は被告の前記利益合計一二〇〇万円から右九〇万円を控除した一一一〇万円の損害を被つた。
(五) 右損害の発生は被告の故意または過失に基づく。
10 よつて原告らはイ号製品及びロ号製品の製造販売の差止並びに右各製品の廃棄を求め、原告田中功は損害賠償金九〇万円及びこれに対する特許権侵害行為の後である昭和五九年九月五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告会社は損害賠償金一一一〇万円及びこれに対する特許権の独占的通常実施権侵害行為の後である右同日から支払ずみまで同割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実について
(一) 原告田中功が原告主張の特許権を有することを認める。但し出願日が誤記であるとの主張を否認する。
(二) 原告会社が本件特許権の独占的通常実施権者であることは知らない。
2 同2、3、4の事実を認める。
3 同5の事実について
(一) (一)を認める。
(二) (二)のうちイ号製品の作用効果3(二)(1)を認め、3(二)(2)を否認する。
4 同6の事実のうち(一)、(二)、(四)を認め、(三)、(五)を否認する。
5 同7の事実について
(一) (一)を認める。
(二) (二)のうちロ号製品の作用効果3(二)(1)を認め、3(二)(2)を否認する。
6 同8の事実のうち(一)、(二)、(四)を認め、(三)、(五)を否認する。
7 同9の事実のうち(一)、(二)、(五)を否認し、(三)、(四)は知らない。
三 被告の主張
1 イ号製品及びロ号製品(以下両者を総称する場合「被告製品」という。)は本件発明と技術思想を異にする。
(一) 被告製品は請求原因3(一)記載の本件発明の構成要件中、(1)及び(2)(以下単に「(1)、(2)」のように表示する。)は満たすが(3)の要件を欠く。(3)の要件と対比されるべき被告製品の構成は請求原因5(一)(3)及び7(一)(3)のとおりである。これらの構成は(3)の要件を充足しない。さらに被告製品には「袋主体1の隅部三箇所に環状金具8を、一方の側縁部3の上下にテープ状の紐11をそれぞれ設けている」との構成が加わつている。
右のような構成により、被告製品で籾殻等を収納する手順は次のとおりとなる。(別紙(五)被告主張被告製品使用図)
第1図<編注・別紙(一)>
第一図<編注・別紙(二)>
(1) 袋主体1は下縁開口部7を下向きとして、その上縁両側の環状金具8・8をそれぞれ二股状のダクト9の吐出口前方部において前後に配置した懸吊桿10・10により複数枚吊持させておき、
(2) そして、最外方の袋主体1の側縁開口部2のファスナーを開いて該開口部2内に二股状のダクト9の一方の吐出口を挿通させた状態で籾殻の捕収作業をなし、
(3) 片方の袋主体内の籾殻が充満すると、弁12を切り換えて、爾後二股状のダクト9の他方の吐出口より、懸吊桿10・10に吊持されている他方の袋主体1でもつて籾殻の捕収を続けながら、
(4) 右充満した袋を懸吊桿10・10より取り外して側縁開口部2のファスナー4を閉じればよく、
(5) 充満した袋内の籾殻は、袋主体1の下縁開口部7を開いて取出す。
右のような使用方法により被告製品は本件発明に比較して袋主体を多数保持することができ、かつ袋の交換がより簡易かつ迅速に行える作用効果を有する。
また、被告製品の下縁部の開口部は籾殻収納中に、袋主体を上下逆にすることなく袋内に収納された籾殻を排出することができるという作用効果も有する。なお、原告は籾殻の排出は本件発明とは無関係な事項であると主張する。しかし、本件発明も収納した籾殻等の排出を考慮していることは、明細書に「本収納袋は、これに収納された籾殻等を取り出す場合、一方の側縁開口部と上縁開口部とを開放し、この両開口部間に位置する隅角部を下向きにすれば、袋主体内の籾殻等は……排出されるものである。」と記載されていることから明らかである。
以上のとおり、被告製品は本件発明とその構成を異にし、それによつて作用効果も異なる。従つて両者は技術的思想を異にする。
(二) 被告は、被告製品を実施例とする籾殻収納袋兼豆類収穫用袋について、昭和五五年八月二二日実用新案登録出願した。この考案は六〇年三月二七日登録された。このことからも、被告製品が本件発明とは異なる技術的思想に基づくことが明らかである。
2 開口部の位置の意義
原告は被告製品の開口部の配置が形式的には本件発明と相違するが、実質的には相違せず、あるいは設計事項または均等の範囲内であると主張する。しかし、本件発明における袋主体に設けた二つの開口部の位置は公知技術にはなかつたものである。これらの位置には極めて大きな意義があり、それによる作用効果が特に重要となる。本件発明において、袋主体の上縁と側縁上部に開口部を設ける理由は、上縁開口部と側縁上部に設けた開口部とをできるだけ接近させて両開口部の距離を小さくし、それによつて、ダクトに少しでも多くの空袋を吊り下げておけるようにするためである。従つて、側縁開口部の位置は上縁からきわめて近い側縁の上部に限られるべきであり、下縁に開口部を設けることまでも本件発明の技術的範囲に包含するものではない。
3 被告製品は原告主張の方法で使用することができず、請求原因3(二)(2)記載の本件発明の作用効果(以下「作用効果(2)」という。)を奏しない。その理由は次のとおりである。
(一) 被告製品の生地は柔軟な網素材というよりも、腰の強い生地である。そのため、横長にして多くの袋を串差にすべく縮めた場合に二つの開口部(側縁開口部と下縁もしくはL形開口部)間の距離が元の状態に復元する。二つの開口部間の距離も一二九〇ミリメートルもある。これを縮めたとしてもたいして縮められたことにはならず、「多数の袋主体をダクトに串差状に吊着する」のに好適でない。
(二) 原告主張の別紙(三)記載のような吊り下げ方をすれば、ファスナー5がダクトの前方に位置するため、被告製品の使用者は籾殻及び風圧をまともに受けながらファスナーを閉じなければならず、袋の交換が簡単かつ迅速に行なえない。また開口部のファスナーを閉めるまでは籾殻が飛散し、「籾摺機を連続的に駆動させたままで籾殻を飛散させることなく迅速に袋を交換し得る」ことにならない。
袋主体を右とは反対向きに別紙(四)原告主張被告製品使用図(2)記載のように配置して使用した場合においても、ダクトの先端より前方に位置する開口部を閉じなければならないことに変りはない。
(三) 被告製品を籾殻捕収状態にするには、縦長にセットする。これを原告主張別紙(三)記載のように使用した場合は、開口部に水平なダクトを無理に差し込むことになり、開口部またはその下部近傍がねじれる。このような状態で籾摺作業をした場合には、一つの袋で回収し得る籾殻の量は少なくならざるを得ない。その結果、たびたび袋を交換しなければならないから、それだけ籾殻が飛散する。被告製品はこのような方法で使用するに適しない。
(四) 右原告主張のように使用すれば、籾殻捕収状態の袋に籾殻が充満したとき、特に宙吊り状態の場合に長いダクトが自重と袋の重量に耐えられず、袋を支えるのには強度的に無理がある。このような場合、ダクトから容易に袋をはずすこともできず、袋の交換が簡単容易ではなく、重みで袋が破損しやすい。
四 被告の主張に対する原告らの反論
1 被告製品の環状金具の意義
被告製品が懸吊桿に吊持するための環状金具8を有することは、本件発明の構成要件外の附加的事項に過ぎない。
本件発明においても、明細書に「図中8は、袋主体1の縁部に設けられた紐輪、若しくはハトメ孔等からなる吊掛具、9は籾摺機の排出ダクト、また10は懸吊桿を示す」と記載してあるように、被告製品の環状金具8に相当する技術的構成を開示しており、この技術的構成を特許請求の範囲に規定していないだけのことである。従つて、右の附加的構成により被告製品が本件発明と相違することにはならない。
しかも、この金具のあることによつて、袋主体が被告の主張する二股状ダクトに使用されなければならない必然性はないから、これにより作用効果の差異が導かれるものでもない。
2 補助装置の作用効果
被告の主張する補助装置(懸吊桿及び二股状ダクト)は本件発明の構成要件とは無関係である。
右の補助装置は本件発明の対象外のものであり、被告製品がユーザーによつて補助装置を必ず伴つて使用されるという必然性はない。被告製品の袋自体としては、補助装置を使用すれば被告が主張するような効果を奏する蓋然性があるというだけのことである。被告製品は、補助装置を使用しないでユーザーの期待どおりにダクトに串差しせしめようとすれば、その串差使用が容易に実施できるように構成されているばかりでなく、本件発明の作用効果を奏するものである。
3 籾殻の排出
本件発明は籾殻を収容することに目的・効果を有する。収納した籾殻を排出することは本件発明の関知しないところである。従つて被告製品において、L形開口部または下縁開口部によつて、袋内部に充満した籾殻を袋下部から迅速、円滑に排出できるとしても、単なる附加的事項にすぎない。
4 被告の実用新案登録の意義
被告の考案は本件発明が開示しない別の技術を附加した結果実用新案登録されたものであり、本件発明に対しては利用関係にある。従つて右考案に被告製品が含まれるとしても、被告製品が本件発明の技術的範囲に含まれることにはかわりがない。
5 被告製品が串差状にして使用することができないとの主張に対する反論
(一) 被告製品の生地等
被告製品はいずれも柔軟な網素材からなるものであるから、横長にして串差しすることが何ら無理ではなく、しかも予め多数の袋主体をダクトに串差しすることが極めて容易である。仮に被告製品が本件発明に比して二つの開口部間の距離が長いためダクトに吊着される袋の数が少なくなるとしても、多少の程度の差であり、本件発明と相違するものではない。
(二) 袋の交換
袋の交換時に作業者がダクトの前方で吹き出される籾殻に曝されることは、本件発明においても全く同じであり、本件発明と被告製品との間に差異はない。
(三) 袋のねじれ
被告製品が串差状態でねじれを生じるとしても、ダクトの先端部に配置され籾殻収納のために待機している袋はピンと張ることができ、予定された量の籾殻を好適に収納することができる。仮にダクトの挿入部分において開口部にねじれを生じたとしても、そのために別紙(三)記載のような使用方法が不可能となるわけではない。
(四) 宙吊りの解決
籾殻収納時に袋が宙吊りになる場合があるのは、本件発明においても同様である。この場合、本件発明の実施例においては、別途に設けた懸吊桿に吊掛具を支持せしめて解決している。これは本件発明の本質に関する問題ではなく、袋主体を実際に使用する場合に起る問題であつて、特許請求の範囲に記載された本件発明自体とは無関係である。
以上のとおり、被告が被告製品をダクトに串差状にして使用することができないことの理由として主張するところは、いずれも理由がない。
第三 証拠関係<省略>
理由
一請求原因1について
1 原告田中功が本件特許権(但し出願日の特定を除く)を有することは当事者間に争いがない。
2 <証拠>(特許原簿謄本)によると右特許権の出願日が昭和五二年九月九日であることが認められる。<証拠>(本件特許公報)の出願日の記載は誤記と認められる。
3 <証拠>によると、原告会社が本件特許権の独占的通常実施権者であることが認められる。
二請求原因2ないし4の事実は当事者間に争いがない。
三右当事者間に争いのない特許請求の範囲の記載と<証拠>によれば、本件発明の構成要件及び作用効果は請求原因3において原告らの主張するとおりと認められる。
四被告製品の構成
1 イ号製品が別紙(一)記載のとおりであること及びロ号製品が別紙(二)記載のとおりであることは当事者間に争いがない。
2 イ号製品を表示すること当事者間に争いのない別紙(一)の記載及び<証拠>によれば、イ号製品は請求原因5(一)の(1)ないし(4)の各構成からなることが認められる。
ロ号製品を表示すること当事者間に争いのない別紙(二)の記載及び<証拠>によれば、ロ号製品は請求原因7(一)の(1)ないし(4)の各構成からなることが認められる。
五被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かにつき、以上の事実に基づいて検討する。
1 本件発明の特許請求の範囲には、袋主体の側縁部の上方に側縁開口部を設け(構成要件(2))、上縁部に上縁開口部を設ける(構成要件(3))旨、開口部の配置を規定している。
ところで、柔軟な素材でできた袋にダクトが挿通可能な開口部を二か所以上設ければ、特に開口部の配置を限定しなくてもダクトを串差状に挿通することが可能である。それにもかかわらず、本件発明においては前記のとおり開口部の配置が規定されていることからみると、本件発明は、袋をダクトに串差状にして使用し得るという作用効果を有すること自体にあるものではなく、右作用効果が合理的に達成される袋主体の構造にあるものと認められる。
2 被告製品は、本件発明とは異なり袋主体の上縁部には開口部がなく、袋主体の側縁の上方に側縁開口部を設け(構成(2))、他方の側縁部から下縁部にかけて設けたL形開口部(イ号製品)又は下縁部に設けた下縁開口部(ロ号製品)を設ける(構成(3))という構成である。
3 被告製品は右のような開口部の配置であることにより、仮に請求原因3(二)記載の作用効果を奏し得るとしても、そのほか次のような作用効果及び使用上の問題がある。
(一) 被告製品にあつてはその構成から、籾殻収納作業中に、袋主体の下部開口部から籾殻を必要量取り出すことができ、また袋主体の下部に充満した籾殻を迅速、円滑に排出できるという作用効果が期待できる。
(二) 被告製品はダクトに串差状にして使用することが可能であるとしても、その構造からみて、ダクトに串差状にした場合側縁開口部からその上隅にかけて無理な変形を生じることがあり、かつ二つの開口部の距離が縮められたとしても、なお冗長である。そうすると、被告製品を籾殻収納に使用する方法としては、ダクトに串差状にするよりも、二股状ダクト及び懸吊桿を用いる方法がより合理的であるといえる。
4 以上によると、被告製品は、袋主体の側縁上方部と、他方の側縁部から下縁部にわたり(イ号製品)又は下縁部(ロ号製品)に開口部が設けられており、ダクトに串差状にして使用できるという作用効果の合理的達成を目的とした構造とはなつていない。しかも、被告製品は袋主体の下縁に開口部が設けられているので、前記3(一)の作用効果が期待し得るのに対し、本件発明では袋主体の上縁に開口部が設けられているため、袋を引つくり返して籾殻を排出しなければならず、右作用効果を奏し得ない。そうすると、本件発明と被告製品との開口部の配置の相違は別異の技術思想に基づくものであり、被告製品の構成(3)が本件発明の構成要件(3)を充足しないのは勿論、均等のものとも認められないので、結局被告製品は本件発明の技術的範囲に属するものとは認められない。
六よつて原告らの本訴各請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官横畠典夫 裁判官紙浦健二 裁判官大泉一夫)
別紙(一)
イ号図面説明書
一 図面の説明
第1図は収納袋の斜視図である。
二 図面の詳細な説明
袋主体1はラッセル編された網地により構成され、この網地はダクトから風送排出される籾殻等が通過し得ない目巾の網目を有する。
袋主体1は一方の側縁部3の上方に側縁開口部2を設けており、この側縁開口部2には前記排出ダクト9が挿通可能である。また袋主体1の他側縁部3の下方から袋主体1の下縁部にかけてL形開口部7を設けている。
前記L形開口部7にはファスナー5が設けられ、前記側縁開口部2にはファスナー4が設けられており、何れの開口部もそれぞれのファスナーによつて開閉可能である。
なお、6は袋主体1の上縁部であり、8は袋主体1の隅部三個所に設けられた環状金具、11は一方の側縁部3の上下に設けられたテープ状の紐である。
別紙(二)
ロ号図面説明書
一 図面の説明
第1図は収納袋の斜視図である。
二 図面の詳細な説明
袋主体1は割布により形成された網地により構成され、この網地はダクトから風送排出される籾殻等が通過し得ない目巾の網目を有する。
袋主体1は一方の側縁部3の上方に側縁開口部2を設けており、この側縁開口部2には前記排出ダクト9が挿通可能である。また袋主体1の下縁部には下縁開口部7を設けている。
前記下縁開口部7にはファスナー5が設けられ、前記側縁開口部2にはファスナー4が設けられており、何れの開口部もそれぞれファスナーによつて開閉可能である。
なお、6は袋主体1の上縁部であり、8は袋主体1の隅部三個所に設けられた環状金具、11は一方の側縁部3の上下に設けられたテープ状の紐である。
別紙(三)ないし(五)<省略>